子どもたちには最善の教科書を
 八重山教科書採択問題で、9月26日から3回連載で「しんぶん赤旗」に検証記事が掲載されました。筆者は、党文教委員会責任者の藤森毅さんです。
 私が八重山に旅行していたときは、まさにこの渦中にありましたが、八重山で発行されている地元紙では、局面、局面での断面は伝わってくるものの、今ひとつ要領をえなかった一連の経過の、どこが問題なのか、一番わかる記事だと思います。HPにも掲載されていないようなので、「続きを読む」に紹介させていただきたいと思います。
検証 八重山教科書採択
多数の意思で逆転

 教科書選定をめぐって揺れた沖縄県八重山地区。この8月、公民教科書が育鵬社版に決まりかけ、9月に逆転、別の教科書が採択されました。一般にはなじみのない教科書採択の世界。何がどうなったのか検証します。

 国は法解釈により教科書の採択権限は教育委員会にあるとしています。複数の自治体からなる八重山地区の場合、関係する教育委員会が協議して教科書を採択します。
 まず9月の逆転採択からみてみましょう。
各教育委員の意見
 9月8日、八重山の3市町の全教育委員13人が集まりました。採決結果は、育鵬社賛成2、反対8、意思表示なし2、退席が1人。意思表示なし、退席はいずれも育鵬社支持とみられます。この間の経過からみても教育委員は、8対5で「育鵬社」反対が多数です(写真参照―堀内)。そして賛成8で東京書籍を採択しました。

反対は6割超
 教育現場の意見も「育鵬社は困る」。八重山の教科書調査員(現場教員)の報告書には育鵬社版の多くのマイナス面が記述されています。校長会はこの調査の尊重を求めました。八重山地区PTA連合会も育鵬社を採択しないよう要請しています。
八重山地区の世論調査
 住民の意思も明確です。地元紙の世論調査では育鵬社反対が6割を超え(「琉球新報」9月7日付)、別の地元紙は教育委員会の決定に「採択逆転 市民安堵(あんど)」と大見出しをつけました。(「沖縄タイムス」9月9日付)
 8月に育鵬社に決まりかけたというのは、八重山採択地区協議会が行った答申のことです。(8月23日)
 同協議会は3市町教育委員会の教科書選定の諮問に応じ答申をおこなうために設置された、教育委員会の諮問機関です。その答申が育鵬社版だったわけです。
 大多数の関係者が反対する教科書がなぜ選定されたのか。そこにはカラクリがありました。
 6月27日、育鵬社支持の玉津博克協議会会長(石垣市教育長※)が主導し、規約を大改定、委員を11人から8人にし学校関係者を外すなど育鵬社支持が多くなるようにしました。実際、協議会は育鵬社支持が多数を占めることになりました。
 しかし、協議会の選定とは、あくまで「この教科書にしたらどうか」という答申であり、その通りにするかどうかは教育委員会の判断です。意見が割れた場合、関係教育委員会が協議し一本化することになっています。
 竹富町教育委員会が答申を否決し、どう一本化するかを話し合ったのが、冒頭の全教育委員の会議でした。全員で集まると不利になる育鵬社派は反対しましたが、粘り強い議論をへて意見が一致できない場合は多数決で採択することが決まり、冒頭の逆転採択となりました。

選定の原点は
 もともと教科書選びは、子どもの学習に最善のものを選ぶという教育の営みです。たとえ教育委員会に最終権限があろうと、実際に教えている教員の意見が尊重され、保護者や住民の意見も重視されなければなりません。
 その原点にたてば、教員・校長会、PTA連合会、住民の多数が反対している育鵬社版を選ぶことはありえないことです。この教育の条理をふみにじろうとした一部の教育委員。さらに文部科学省は9月の採択に疑義をはさみ介入をうかがっています。これらの背後には自民党議員らの常軌を逸した政治介入がありました。
 ※教育長とは、教育委員会の指揮のもとに事務を統括。教育委員会の代表は、委員の互選で選ばれる教育委員長(この注は、堀内)。

自民が「本気」介入
 「こんなところにいていいのか。国会で県教委は不当介入だと言われているぞ」。8月10日、玉津採択協議会会長は石垣市を訪れた沖縄県教育庁職員に言いました。県庁職員は、採択協議会に校長・指導主事を追加するなどの要請に来ていました。
 その日国会で県教委の要請を「不当介入だ」と取り上げたのは、自民党の古屋圭司衆議院議員。中学校教科書採択に向け2月に再スタートした「日本の前途と歴史教育を考える議員の会(略称教科書議連)」の会長です。県の行為は指導にあたり、内容も教育専門家の意見反映のためという穏当なもの。文科省は不当介入論に同調しませんでした。ちなみに玉津氏の発言は、古屋議員の質問の前。事前に質問内容を知っていたわけです。

エスカレート
 自民党による介入はエスカレートします。
 教科書採択のために3市町の全教育委員が集まった9月8日、席上で玉津氏がある文書を読み上げました。「教科書採択における文部科学省との確認事項」と題するその文書の発信元は、義家弘介自民党参議院議員(教科書議連事務局長)。8月の協議会で育鵬社答申が、法律上の教育委員会の「結論」に該当するなど、玉津氏の立場を支持する内容です。それを国の方針だとすごむ玉津氏。地元紙は「義家議員、玉津氏に指南」と報じ、義家氏は情報提供だと自身の行動を認めました。(「琉球新報」9月13日付)
 しかし、答申が法律上の採決となるはずがなく、議事はすすみ、育鵬社の答申は否決、他の教科書が採択されました。
 すると自民党は採択自体を覆すために動き出します。
 9月13日、自民党本部。自民党文科部会と教科書議連の合同部会が開かれます。沖縄県教育庁義務教育課長と玉津会長が呼ばれ、文科省も同席しました。そこでは沖縄県教委の姿勢がさんざん批判されます。さいごに下村博文部会長が文科省に対し、沖縄県教委への指導を通じ、竹富町が育鵬社採択をするよう要請しました。
 政党本体が沖縄の南西の島々で特定の教科書―しかも沖縄戦集団「自決」に日本軍関与はなかったという立場にたつ人々が編集した教科書です―の採択のため、なりふり構わず教育委員会と文科省に圧力をかける。かつてない教育への政治介入の事件です。

パンフを作成
 自民党は「つくる会」系教科書採択のために準備を重ねてきました。昨年12月22日に県連と地方議員に「新教育基本法に最も適した採択」を推進せよと通達。さらに5月25日には6月地方議会にむけ再度の通達をだしました。質問案文や決議案文も添付し用意周到です。
自民党のパンフレット
 さらに「新教育基本法が示す愛国心、道徳心を育む教科書を子供たちへ」と題するパンフレットを作成。全国に配布しました。6月10日予算委員会では義家参議院議員が「つくる会」系教科書を「自虐史観から脱却したまともな歴史教育」ともちあげる質問をしています。
 「『つくる会』系教科書を採択させよ」の号令。そのもとで自民党は各地で「今回は本気だ」といわれる動きを見せました。その一つが八重山の介入事件です。

不当な文科省の対応
 もともと9月8日の逆転採択は、沖縄県教育庁が文部科学省と「調整を繰り返し、認識を確認した上で」(9月14日付「琉球新報」)実現したものでした。ところが9月13日、自民党文教部会長が文科省に圧力、同日、中川正春文科相は「協議は整っていない」と発言、15日には「採択地区協議会の……結果(育鵬社のこと)に基づいて……採択を行うよう指導を」という文科省通知がでます。
 政治的圧力のなかで変更された文科省方針。それが検討にたえられるものか、最後に検証します。
 文科省通知について、その意味を担当課にただしました。
 回答は、「結果に基づいて」というのは「結果通りに」ということではない、育鵬社と違う教科書を採択してもよい、というものでした。地区協議会はあくまで「答申」をだすだけで、教育委員会はそれに拘束されないことがはっきりしました。

正当な手続き
 「協議は整っていない」という大臣の認識はどうでしょうか。その根拠は、石垣市と与那国町の教育長の「協議は無効」という主張です。その後、教育委員会を代表する3人の教育委員長は連名で「協議は有効」とする文書を国に送付しています。
 どちらが正しいのか、当日の経過を追います。
 初めに3市町の教育委員全員からなる八重山地区教育委員協会が開かれます。「協会」には採択権限が明記されていませんが、同じメンバーからなる教育委員会ならば採択権限があります。そのことを確認し、招集権限のある3教育委員長の招集で13人の教育委員会に移行します。
 教育委員会は「協議は不可欠」と確認後、いったん3市町にわかれ協議形態について検討。与那国町と竹富町は「全教育委員で協議」。石垣市はまとまりませんでした。全教育委員で話し合い、全員での協議とすることを確認します。
 その後、協議の結論を多数決で出すかどうかを検討。議論のすえ、多数決方式が賛成8で決します。その後、賛成8で東京書籍が採択されました。手続きをふんだ正当な正当な採択であり、協議は明らかに有効です。
 文科省は、多数決方式への各教育委員会ごとの意思確認がないことを問題にしますが、重箱のスミをつついたような話です。すでに全員協議が、各教育委員会の意思確認をへて決定されています。そのもとで結論に至る方法を全員の協議で決めたことを国がとがめるのは無理な話です。

暴走したのは
 そして文科省は肝心なことをみていません。誰が混乱を引き起こしたかです。
 9科目15種目130冊を超える中学教科書。そこから最適なものを選ぶには現場教員の意見反映が不可欠です。文科省通達も「それぞれの地域において広く関係者の理解を求めるよう努める」としています(2002年8月30日付)。その精神を踏みにじったのは、玉津博克会長の強引なやり方でした。
 選定作業の途中で地区協議会から現場教員を排除して自分に有利な構成に。さらに規約を無視して教科書調査員を独断で委嘱、同じく調査方法を育鵬社に有利に変更。それでも育鵬社推薦の調査書は一つも出てきませんでした。
 結局、玉津氏に有利な構成となった協議会は、教科書調査員、校長会、PTA連合会が反対している教科書を答申。ここに問題の源があります。「広く関係者の理解」がまったく得られない道を暴走した玉津氏は、真の意味で教育的指導が必要でしょう。
 9月8日の採決の時、育鵬社に賛成してきた石垣市の女性委員が発言しました。「公民はほとんど目を通していないので判断できない」。教育の営みからはずれた育鵬社派の暴走。それを見ないで自民党の圧力に屈するのか、教育行政の根幹が問われています。