今日は、神戸医療生協の平和・社保委員会で憲法をめぐる情勢について講演。自民党の改憲草案の中身をはじめ、改憲策動の狙いや本質、到達などとともに、戦後の憲法9条裁判の歴史をひも解いて、憲法を守る国民的運動の到達に確信をもって、憲法を守る多数派形成と、政治に生かす共同を広げる決意を申し上げました。
 今日の講演のタネ本は、かもがわ出版から出ている『憲法九条裁判闘争史』。砂川、恵庭、長沼、百里、イラク訴訟と憲法判断が問われた裁判にかかわってきた内藤功弁護士に、イラク訴訟で奮闘した川口創、中谷雄二両弁護士が聞くという構成で、法廷で権力とやりあった生々しい記録とともに、その今日的意義が浮き彫りにされ、たたかいの力になる必読の書です。続きにレジュメを掲載しておきます。
 このほか、この間は、駅頭宣伝や労働組合の旗開きなどに参加。
憲法を守るたたかいの現局面をどうみて、たたかうのか

1、総選挙の結果をどうみるのか
(1)各党が「国防軍」、「集団的自衛権の行使」を掲げた異様な総選挙
○自民党
 「国家安全保障会議」の設置(官邸の指令機能強化)、「集団的自衛権の行使を可能とし、『国家安全保障基本法』を制定」。「米国の新国防戦略と連動して自衛隊の役割を強化し、・・・日米防衛協力ガイドライン等を見直し」。「憲法改正により自衛隊を国防軍として位置付け」。「国際平和協力一般法」を制定。
 ※自民党憲法改正草案
○民主党
 「動的防衛力の強化」など。選挙中に野田首相(当時)が「集団的自衛権行使」に言及。
○公明党
 マニフェストには改憲の具体的記載なし。ただし立候補者の8割が「改憲派」(毎日新聞――ただし9条は94%が改正反対)。9条については「第1項(戦争放棄)、第2項(戦力不保持)を堅持した上で、自衛隊の存在や国際貢献等を『加憲』の論議の対象として慎重に検討する」(10年参院選マニフェスト)。
○みんなの党
 「自衛権の行使の範囲や限界等を法律により明確化」。
○日本維新の会
 「決定できる統治機構の本格的再構築」へ「憲法改正」。「改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に」。「9条を変えるか否かの国民投票」。→「自主憲法の制定」を盛り込み、集団的自衛権の行使を定めた「国家安全保障基本法」の整備。

※自民党憲法改正草案について
①天皇の元首化
②不戦の誓いと平和的生存権を前文から削除
③9条2項の削除と国防軍の創設で武力行使の歯止め消す
④集団的自衛権行使を可能にし、「国際社会」(国連ではない)、「治安維持」名目の活動、「機密の保持」や軍法会議の設置など戦争をする国づくりへ
⑤「公共の福祉」を「公益および公の秩序」に置き換え基本的人権を制限
⑥公務員の労働基本権の制限や財政の健全化を口実に社会保障費削減に道を開くなど、社会権・生存権の切り捨て
⑦国家緊急権規定
⑧憲法改正要件緩和など

(2)「自公圧勝」はしたが…避けられない国民との矛盾
○総選挙の結果
 改憲に積極的な自民党、日本維新の会、みんなの党の議席は計366議席で、3分の2(320議席)を上回る。当選した新議員の72%342人が9条を変えることに賛成(毎日新聞)。自公連立政権構想にはじめて憲法問題が明記される。安倍首相、集団的自衛権の行使の見直しへ訪米時に議論を表明(13日NHK番組)。解釈改憲、明文改憲両面での策動を強めている。
○“虚構の多数”にたつ自公政権と国民との矛盾
 前回比で219万票減にもかかわらず大幅議席増の自民党は、有権者の15%の得票しか得ていない。
一方、前回比1000万人もの投票減。05年小泉郵政選挙、09年政権交代選挙と比べても、模索を深める国民の動向。政治変革を求める国民的模索はさらに深まり、そのエネルギーはさらに大きくならざるを得ない。

(3)国際社会との矛盾は避けられない
 「軍事大国化のための制度整備を急ぐ方針で、東アジアの緊張が新年早々から高まる見通しだ」(韓国「東亜日報」)、「安倍晋三氏は韓国との緊張をかき立て、協力をさらに困難とするような間違いで、彼の在職期間を会ししたいと思っているようにみえる」(アメリカ「ニューヨークタイムス」)、「(日本の再武装や靖国参拝などを掲げる安倍氏の政治姿勢は)日本に何の利益ももたらさないだろう」(フランス「ルモンド」)…改憲とともに、過去の侵略戦争を否定する政治志向にはアジアはおろか、欧米諸国からも批判の声があがっている。
 とりわけこの間、オバマ米政権からも「『河野談話』を見直すことになれば米政府として何らかの具体的な対応をせざるをえない」として慎重な対応を求められていることも報道されている(6日付「日経」)。

2、近年の憲法をめぐる政局と国民運動
(1)国民投票法と憲法審査会設置
○2007年通常国会で改憲国民投票法が可決・成立。改憲原案の審査権限を有する憲法審査会が衆参両院に設置。
○2010年5月国民投票法が全面施行(18歳選挙権の実現、公務員の政治活動の自由についての検討などの課題は実行されず)。
○2011年10月、憲法審査会の始動が強行。
○2012年3、4月、維新の会、たちあがれ日本、みんなの党、自民党と相次いで改憲案を発表。衆参対等統合一院制国会実現議員連盟が改憲原案を提出。審査会も自民改憲草案の説明の場に。

(2)“靖国派”の野望を打ち砕いた国民運動
 05年5月の不破講演。当時重大な外交問題となった小泉首相の靖国参拝など、過去の戦争を正しかったとすることは、日独伊のおこした侵略戦争が不正・不義の戦争だったという戦後世界の秩序の土台を否定するもので、日本が世界で生きていく地位を失ってしまうことを明らかにするとともに、靖国神社がそうした特異な歴史観の宣伝という政治目的をもった運動体であることをあきらかにしたことが、国内外に衝撃を与えた。
 「構造改革」政治への批判ともあいまって、「美しい国」など戦前回帰のようなスローガンを標榜した次の安倍内閣は、07年参院選で大敗し、その次の麻生政権のあと、「政権交代」となるなど、改憲スケジュールを大きく狂わせてきた。

3、戦後の9条裁判闘争史から
 改憲策動の発信源は、戦後直後のアメリカから。施行直後の憲法を変えることが現実的でないことから、今後の改憲の橋渡しになるような警察力の強化(警察予備隊→保安隊→自衛隊)からはじまる再軍備と海外派兵の道を安保体制の下ですすめてきた。
 憲法を武器にしたたたかいが、そうした道を遅らせ、阻止する確かな力になってきた。

○砂川事件伊達判決(59年3月東京地裁)
 安保条約で「極東における国際の平和と安全」という名目で日本区域外に米軍が出動すれば、日本が戦争の渦中に巻き込まれる危険性を指摘し、日本政府が要請して、お金を出し、施設や物資、労務を提供しているからこそ米軍が駐留しているのであり、「結局わが国内に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものといわざるを得ない」と断罪。跳躍上告で破棄されたが、新安保調印の時期に重要な闘争。判決自身も差し戻しで罰金2000円。その後土地収用も撤回され、基地の跡地は公園に。
 全土基地方式と日米共同作戦という安保6条、5条に対する憲法論の骨格がすでに伊達判決にはあり、今日するどく突き刺さっている。

○恵庭事件判決(67年3月札幌地裁)
 紛争解決の作戦行動のシュミレーションをおこなった三矢作戦計画が国会で大問題になり、法廷でも同作戦の長である田中義男陸将を証人尋問。米軍幹部も参加していたことが明らかになるなど、米軍を守る自衛隊の本質が法廷で明らかにされた。
 政府側から自衛隊の合憲判決を勝ち取ろうと仕掛けられた裁判だったが、論告求刑削除という異例の結末。憲法判断の回避をしたが、被告無罪勝訴。

○長沼訴訟1審判決(73年9月札幌地裁)
 裁判所長による裁判長に対する執拗な干渉ではじまった裁判だが、自衛隊の実体審理がおこなわれ、司法には国家行為の憲法適合性を審理し、判断する義務があることを明確にして、「自衛隊は憲法第9条が禁ずる陸海空軍に該当し違憲である」とし、さらに平和的生存権については、「国民一人ひとりが平和のうちに生存し、かつその幸福を追求することができる権利」と明確に判示した。
 とりわけ平和的生存権について、基地ができれば攻撃目標にされるという軍事面からだけでなく、壊されることになる水源涵養保安林自体が、地域住民の生命・身体・健康・生活の安全を保護していて、基本的人権と民主主義と平和主義を実現するためのものと規定。
 また憲法9条の先駆的意義について、それによる平和の具体的保障を明らかに(①平和憲法のもと、国民の権利・自由を保障する民主主義国家としてすすむことで国内的に戦争の原因が発生することはない、②そうした平和的民主主義国家として歩む国を侵すものはない、③世界は、平和を念願し、対立・抗争があってはならないという信念が世界に行き渡っていること、④国連の発足によって戦争防止と国際間の安全保障の可能性が芽生えてきたこと)。
 高裁で破棄されたが、これらの諸点は今日なお光彩を放つ。

○百里訴訟(2審東京判決81年7月、最高裁89年6月)
58年提訴から17年、自衛隊の実体審理なども徹底しておこなうも、58年当時の自衛隊が 戦力であるかを断ずることはできないとの1審判決(77年)。
 控訴審で、平和的生存権について「あらゆる基本的人権の根底に存在する最も基礎的な『条件』」と規定。上告、最高裁では9条の国際平和主義、戦争の放棄、戦力不保持などの規範は、民法90条の公の秩序の内容の一部を形成するということまでは認めた。

☆一連のこうした闘争が、集団的自衛権の行使は認められないということや武力行使を目的とする海外派兵はできないということ、武器輸出3原則など、政府の手を縛ってきた。

○イラク訴訟(名古屋高裁08年4月)
 訴えはいずれも棄却の敗訴だが、判決文のなかで、イラクはまさに戦争地帯であること、航空自衛隊が米軍を運ぶ活動は、イラク特措法に違反し、かつ憲法9条1項に違反すること、平和的生存権威ついては、基本的人権は平和なしにはありえないから、単に憲法の基本的精神や理念を表明しただけでなく、具体的な権利性があること、国が憲法9条に違反した場合には、裁判所に対して差止め請求や損害賠償請求等をおこなうことができるとしたことなど、画期的な判決に。

4、さいごに
 改憲の最大の狙いは、アメリカがおこす海外での無法な侵略戦争に、日本がともに参加をする道を開こうというもの。
 そうした策動を日本の国民は許さないし、アジアと世界からも孤立する未来のない道。
 戦後の国民が築き上げてきた運動の到達と、世界の流れ、変化に確信をもって、憲法を守る国民の多数派形成と、憲法を守り生かす政治の実現への共同の輪を広げよう。

以上

○そういえばまた長らくつけていなかった読書ノート。この間、鶴見俊輔、小田実著『オリジンから考える』(岩波書店)、『宮本顕治著作集2』、『同3』(新日本出版社)、芝房治著『道 遥かなり奥吉野』(奈良新聞社)、そして冒頭の『憲法九条裁判闘争史』などを読む。